かたいなか

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「たくさんの、『想い出』、だもんなぁ……」
思じゃなく想だとさ。双方の違いって何だったかね。
某所在住物書きはネット検索で漢字の意味を調べながら、某せきどめ飴の丸缶ケースをチラリ。
「以前このアプリで出てきたお題は、7月はじめ頃の、『友だちの思い出』だったっけ」
それは昔々、物書きの厨二病真っ只中、未成年時代、
医療従事者の二次創作仲間から勧められた良薬。
『喉の不調には、これがよろしい』
既に連絡交流も叶わぬ思い出の残滓である。

「思考全般が『思』、特に心から、比較的強い感情とともに、ってのが『想』、さして大差無い……?」
やべぇ。もう分からん。物書きはカラカラ、缶ケースを手に取り軽く振って、元の場所へ戻した。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、花咲き風吹く雪国の出身。
今年、満を持してリビングに、高低可変式、ソファーにも椅子にも座布団にも対応可能なこたつを、
ひとまず、ダイニングテーブルとして実装。
藤森の後輩たる高葉井を招いて、少し料理も豪勢にして、「最初の晩餐」を為した。

「何故今までこたつを置けなかったか」を知る後輩にとって、大型家具設置は喜ばしい大事件。
ことの発端を辿れば去年の過去投稿分、7月18日頃にさかのぼるのだが、ただただスワイプが苦行。
要するに恋愛上の酷いトラブルがあり、
今年ようやく、それが完全解消されたのだ。

「先輩ってさ」
もっしゃ、もっしゃ。 晩餐を終えた後輩は、デザートとして、こたつの上のミカンを堪能している。
「別に、答えたくないなら答えなくて良いけど、
結局、なんであの元恋人さんに嫌われたの?
おうちデートで、いつもの『粉ポタージュとか鍋キューブとか流用した簡単低塩分低糖質料理』でも出して、料理できないって幻滅された?」

「逆だとさ」
あのひとの鍵無し裏アカウントによれば、だがな。
藤森は前置いて、タパパトポポ、トポポ。
後輩に食後の茶を注いでやり、ため息ひとつ。
「当時は、調味料を揃えてダシを引いて、そのうえで『食費節約の結果解としての』低塩分・低糖質を出していたんだ。それが『解釈違い』だったと」

「それ」を、やってほしくないなら、「やってほしくない」と言えば良かったものを。
あのひと、私には面と向かって「その味好き」、「これ私もやる」と言うくせに、
裏アカウントでは「それ地雷」、「この味私大嫌い」と真逆を呟いていたワケだ。
そりゃ人間不信にもなるさな。
2度目のため息を大きく吐いて、藤森は説明して、
そして後輩に、首を小さく傾けてみせた。

「ちゃんとダシとって調味料使って、ヘルシー料理を恋人さんに出しただけ?」
「私がお人好しなのも解釈違いだとさ」
「はぁ」
「『私』は、仕事以外興味が無くて、人には懐かず、淡々平坦な感情しか無いシャー猫、あるいは静かな手負いの獣であるべきだと」

「それ先輩じゃなくない?」
「捻くれてた時期があったんだよ。私にも」
「はぁ。感情平坦は分かるけど、想像つかない」

もしゃもしゃ、もしゃ。後輩は相変わらず、次から次へとミカンをむいて、藤森の注ぐ茶に夢中。
時折手を休めるのは、その合間合間に、一連のたくさんの想い出を懐かしんでいるためだ。
「いろいろあったね。ホントに」
まぁ、まぁ。結果として、先輩は恋愛トラブルが解決したし、私はおこたでミカン食べられるし。
大団円だよね。もしゃもしゃ。
後輩にとって、すべてはハッピーエンドとして過ぎたこと。酒のつまみ。ミカンのオトモの茶である。

「そうだな。いろいろあった」
ようやく後輩の茶の世話を終えて、藤森も、もしゃもしゃ、もしゃ。ミカンを食べ始める。
「ところで」
そして後輩たる高葉井に爆弾を投下するのだ。
「私が元恋人と出会う前、上京してきた初日、宇曽野から地下鉄の乗り方を教わってるとき、
ビビリのくせにフラフラあちこち行くから、『敬語ハスキー』だの『バンビ』だの思われていた、
というハナシは、お前にしたこと、あったか?」

「けいごハスキー……ばんび……?」
ぽとり。宇宙猫の表情をする後輩。
手からミカンの、むいたばかりの実が落ちる。
「バンビと、手負いの獣経由で、今の先輩……?」
なにその想い出。しらない。
そもそも先輩と、先輩の親友の宇曽野主任が、そんな昔から交友あったなんて聞いてない。
後輩は当分、開いた口が塞がらなかったとさ。

11/19/2024, 4:14:11 AM