烏羽美空朗

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眠りの水面下より沈みゆき、ここは深海である。
光のないこの世界では、目を動かす必要がない。一欠片の光さえも得られない場所では、眼球は何の意味も持たなくなるからだ。だから、俺は決してこの瞼を開かない。ついでに身体も動かさない。

……と、思いこんでいたかったのだが、とうとう寒さに耐えきれなくなって、うつ伏せになるようにして恐る恐る寝返りをうち、綿が萎んでへなへなになった敷き布団とふわふわ感を失った毛布の間に隠れるようにして冷たい身体を埋め込む。
俺は、真夜中に目を覚ましてしまった。

正確な時間はわからないが、まだまだ暗く静かなところを見るに、大体丑三つ時だろう。俺の嫌いな時間だ。
怖い。身体を動かせない。いい大人が何を怯えているんだ。と嗤われるだろう。実際、俺もそろそろ慣れるべきだと思っている。

しかし、怖いものは怖いのだ。何度経験しても、部屋の角に誰かが立ち、こちらを凝視しているかのような。あるいは、天井に誰かが張り付いていて、俺が気づいた瞬間に落ちてくるような。そんな異様な気配を纏った暗闇には慣れない。いつだって恐怖心はあるし、それに飲み込まれないように必死なのだから。
普通の暗闇は涙を隠してくれたり、俺だけの世界をくれたり、大好きな筈なのだが。

あ、しかし。しかし、もう少し朝に近づいた時間帯に見れる、ほんのりと青色に染まっていくカーテンは好きだ。
隙間から一筋の光が射し込んでくると、届かないと知りつつもつい手を伸ばし、その輝きに見惚れてしまう。

その時間になるまで、この恐怖に耐えなければ……あぁ、もう一度眠りの水面下に沈むことはできないだろうか。
俺は震える身体でぎゅうと蹲った。

一筋の光

11/5/2022, 1:12:09 PM