白刎

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約束の時間から約1時間後彼女からの連絡が来た

「煙草吸ったらそっちに行くね」

これが僕等の日常だ それでも今日の僕は気持ちが違う
何故なら彼女とはじめてお祭りに行くからだ

飾られた道路に暗闇を彩る提灯 遠くから聞こえる和太鼓に
花火よりメインと言いたくなる程の屋台の行列

僕がそんな人混みに態々行く理由は彼女の一言がきっかけだった

「今年は好きな人と花火とか見に行ってみたいかも」
彼女はそれをどう言う意図で僕に言ったかは分からない
でも必然と今しか無い事を感じ取った

「なら、今年は一緒に行ってみる?」
僕達は付き合って居ない そんな僕が君にこれを言う事は
許されるのだろうか

少しの沈黙の後彼女は

「仕方ないから妥協してあげる」

これすら愛おしかった事を昨日のように覚えている

そんな約束を1時間遅刻した彼女
こんな言い方をしているが特に気にしては居ない
この心拍数がばれないかの方が心配だった

音楽を聴いて落ち着いてた僕の肩にとんとんと振動が走った

目を開けるとそこには黒を貴重に白と青で彩られた
浴衣を着た君が居た

「久し振りに会うから 可愛い僕で会いたくて」

そんな照れた顔で可愛い事を言わないでよ

「かわいい、本当に可愛いよ 僕の為に着てくれたの?」

「自意識過剰って言いたいけど今日は認めてあげる」

そんな先輩が愛おしくて仕方なくて僕は強く抱き締めた

「夏なんて一瞬で終わるから全力で楽しもうね」

その言葉の意味が更新される事はこの夏が最後だった

そこから2年僕は毎年1人で手持ち花火をする

ぱちぱちと綺麗に弾ける線香花火も最後は静かに落ちてしまう

もう少し、もう少し、そんなことを願えど叶う事は無い

「美化しなくても僕から見える先輩はこれぐらい綺麗で儚い者だった」

だから僕はあの日以降の夏1人で手持ち花火をする事を決めている


__お祭り。



2024年7月29日

7/28/2024, 7:03:24 PM