#77 本気の恋
9月も半ば、虫の声も聞こえる夜。
僕たちは「学校はじまりお疲れ様会」を開いていた。
要は夏休みの間に使い切れなかった花火を持ち寄って遊んでいる。
余りものだから線香花火の数が多かった。
僕は最初だけギラギラした手持ち花火をして、少し輪から離れてのんびり小さな花火を楽しんでいた。
「一緒にやってもいい?線香花火」
「うん、いいよ」
声をかけてきたのは、隣のクラスの女子だった。
咄嗟に平静を装ったけど、あまり話したことはなかったから驚いた。
お互いしばらく無言で花火と向き合う。
「ね、聞いてもいい?」
「うん、なに?」
「線香花火、好きなの?」
「そうだね。火花の散る感じが不思議で、見てて飽きない。腕は疲れるけどね」
「そうなんだ、私も好き。繊細なところとか、だんだん様子が変わるところとか。確かに腕は疲れる」
「うん…あ、落ちた」
「ほんとだ。…あ、私も落ちた」
終わった花火をバケツに入れて、少し疲れた腕を振り、次の線香花火を彼女に渡した。
「ありがとう」
「いいよ」
なんとなくまた無言で花火を始めたが、
しばらくして今度は僕から話しかけた。
「僕からも話してもいい?」
「うん?うん、いいよ」
「あの…」
緊張して手が震え、線香花火はポトンと落ちた。
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本気の、恋。
本物じゃなく、本気。
愛ではなく、恋。
小さな煌めきも、
燃え上がる熱情も、
きっと本気の恋。
飛んで火に入る夏の虫?
上等だよ。
体裁にこだわってないで、
飛び込もうよ。
恋は真剣勝負。
素直になった方が、勝ちだ。
9/12/2023, 6:30:08 PM