hikari

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昨日と違う私

月一のまつげパーマと、眉毛ワックス、髪も整えて、完璧。昨日の見てられない私は、今日、結構見てられる私になった。

「変わったね」

それが何よりの褒め言葉だ。
忌々しい思春期の中学時代なんておさらば。
あの時の地獄なんて、もうない。
あの頃の私は死んだのだ。

私は金をかけた容姿のまま、家に帰った。
空は晴天なのに、
買い物すらいかなかった。
香水は、最初の香りが弾けて、甘ったるい重めの香りが部屋を充満させている。

私はテレビをつけた。
チャンネルを次々と変えて、
「なぁに、おもしろくない」
と適当に悪態をついた。
そろそろ、もう、配信アプリでドラマでも見ようかなと思ったとき、
昔見ていた野球アニメが流れた。

なんでこんな不自然な時間に。と思ったら、
夏休み特別企画、と、番組情報に書かれていた。

ま、これでいいか、とその懐かしいアニメをつけたままにした。アニメなんて、何年ぶりだろう。

私はそうめんを茹でて、適当に麺つゆを薄めた。
卵を入れて、七味をかける。これが最高。
私はズルズルと麺をすすった。画面には、知っている内容の話が進んでいく。

ワンシーズンが終わり、
気がつくと、夜になっていた。

あれ、面白い。

あれ、わたし、これ、

「すきだわ」

と、つぶやいた。

誰もいない1Kに、声は溶けていく。

私は右手にある全身鏡に目を向けた。
整えられた眉とまつ毛と、艶々の髪を触った。

よかった、私はあの頃から変わっている。
毎日、毎日、私は少しずつ変化している。大丈夫。

だけど、これでもう見れないエンディングの歌が
酷く名残惜しかった。

「なんにも、変わってないね」

私は胸の高揚を感じていた。

誰にも見られていない、
誰にも感じられない、
誰にもわからない、
密かな私の「こころ」は、
あの頃の私が今でも私の中に存在していることを
証明していた。



5/22/2025, 4:39:40 PM