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『沈む夕日』

静止画が浮かんだ。

つまらない。

心が本音を呟いてから、僕は気の進まない手を、毛先の整った細い筆に伸ばした。

パレットに白の絵の具を出す。弄ぶように筆先で白で広げて、薄く水平線を横に引く。

次。
赤と黄色と、わずかな白を織り交ぜて、柔らかく身を預けるオレンジの光を描いた。

青を出して紫を作る。
紫色に染まる空を背景に描けば、紫色のカーテンが沈む夕日を演出する、強調のコントラストが誕生。

小さく息を落として、描かれた絵を見る。

完璧な一枚絵だ。

まるでカメラで切り抜いたような写実的な骨格に、幻想的な色の衣装を着せるように描かれた【沈む夕日】は、高校生が描く絵画としては、天才と銘打たれても遜色のない完成度に思えた。

だけど、ダメだ。
僕の描きたい絵は、こんなものじゃない。

あくまでも先生の指示に従ったけれど、そもそもテーマの提示がお粗末だ。

沈む夕日、と言われてしまえば、夕日を描く事になり、その他は全て引き立て役にしかならない。

だがもし、『夕日が沈む様子』を描けと言われていたのなら。

絵の主役は夕日ではなく、絵画全体の様子ということになる。そうなれば、構図や描く物体の有無も、そこにある全てが夕日が沈みゆく様を見送るように描く必要も出てくる。

単純に、テーマの提示ひとつで、こちらの訓練にも、絵画を書くという営みに対しても、大きな違いが生まれる。

あくまでも、先生の言ったテーマに沿う絵を描く事を徹底はしているが。

それでも『沈む夕日』を描けというのは、僕にとっては、あまりにも退屈でつまらないテーマだった。

今日は家に帰ってから、『夕日が沈む様子』の絵を、描いてみるとしよう。

4/8/2026, 8:44:54 AM