木枯らしが僕の初恋をさらっていった。
「ひゃー寒い!」
数メートル先にいる彼女が、そう言って隣にいる男にもたれかかった。
並木道の枯葉が風でカラカラと音を立てる。
クールで利発な人だと思っていた。一緒に図書委員として活動する中で、凛とした物腰とか、本を読む姿の美しさとか、そういうところに僕は惹かれた。
彼女は今、弾けるような眩しさで笑っている。寒さか、高揚か、頬を赤く染めている。僕の知らない男に向かって。
あんな顔するんだ。好きな男の前では。
渡そうとしていた手紙が、木枯らしになびいて手の中で暴れる。
もう終わった恋だ。切り替えた方が良い。彼女に伝えようとした言の葉なんて、一刻も早く忘れた方が良い。その方がお互いのため。
それでも、強風にもぎ取られそうになるそれを、僕は手放すことができなかった。
彼女が手を男に差し出す。男がそれを握る。
彼女の手は温かいだろうか。それとも冷えているのだろうか。
乾ききった冬の景色がにじんで、僕はこれ以上彼女の姿を見るのが耐えられなくなった。
もうこれ以上、好きになってはいけない。
【お題:木枯らし】
1/17/2024, 12:04:00 PM