池上さゆり

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 毎日、お母さんにお弁当を作ってもらうこと。それを学校に持っていって完食すること。ちゃんと、ありがとうとお礼を伝えること。それが私の当たり前だった。
 これが当たり前じゃないと知ったのは高校二年生になってクラス替えが行われたときだ。一年生の時に仲良くしていた人たちとクラスが離れて、私は新しく一緒に昼ごはんを食べる人を探していた。その中、偶然仲良くなったのが後ろの席に座っていた女の子だった。私のほうから一緒にお昼食べようと誘うと少しめんどくさそうな顔をして、いいよと言ってくれた。
 私はお弁当を広げて食べ始めたが、彼女は購買で買ってきたパンを食べていた。
「お弁当じゃないの?」
 あからさまに嫌な顔をしているが、気になって仕方なかった。
「うち、お父さんと二人で住んでるんだけど、料理なんて作れないから」
「自分で作ればいいんじゃないの? お母さんから教わらなかったの?」
 すると、彼女は怒った顔をして立ち上がった。
「やめて、そういう話嫌いだから」
 そのまま彼女は教室を出て行った。そんなに怒るほどの質問をしてしまったのだろうか。どこか納得できないまま不思議に思っていたが、その後話しかけようとすると逃げられるようになってしまった。
 その話を一年生の時の友達に話すと全員に怒られてしまった。無神経すぎる。初対面で言うことじゃない。自分の当たり前を押し付けちゃいけない。
 どれもピンと来なかったが、みんながこう言うのであれば私に非があるのだろう。謝ろうと、次の日のお昼の時間に話しかけようとした。すぐに逃げようとしたので反射的に腕を掴んでしまった。
「この間は無神経なこと言ってごめんね。悪気はなかったの」
 彼女は力強く腕を振り払った。嫌悪をむき出しにされた目がこわい。
「あんたみたいな無神経なやつは簡単に治らないことぐらい知ってる。あんたとそっくりな人間も大量に見てきた。どうせ、誰かに怒られたから謝りに来たんでしょ」
「そうだけど、でも、言われないとわからないこともあるから……」
「じゃあ私が不快に思うたびに注意してくれってこと? そんなやつと仲良くするなんて私には無理。もう話しかけないで」
 そう言うと彼女はまた教室から出て行ってしまった。私が悪いのだろうか。私のどこに非があったのだろうか。答えがわからないまま、嫌われてしまった事実を忘れようとした。

7/10/2023, 7:58:05 AM