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お題『七色』

俺と兄がいつもご飯を食べているダイニングテーブルの上にで、兄がガサガサと包装紙の音を立てている。
俺は兄が指定してきた長さで、淡いピンクのリボンを7本切っていた。
その前は大きな包装紙を切っていたのだが、兄さんの指定通りに切れず何枚か失敗し、包装紙が足りなくなった。
ついさっき、すでにカットされているものを買いに走ったばかりだった。

兄さんは慣れた手つきで、テーブルに置かれた透明な箱を包装していく。すでに包装したものは5つ。6個目を手に取ると、無駄のない動きで手早く包みはじめた。
しわ一つ入れない、ぴしりと角まで整えられる。包装の手つきを見ると、やっぱり几帳面だな、と思ってしまう。
テーブルの上には、まだ包まれていない箱があと20個以上残っている。

まだ包装されていない、透明なボックスの中ににころころと入っているのは、パステルカラーの小さなマカロンが7つ。
桃色、オレンジ色、クリーム色、エメラルドグリーン、水色、薄い青、薄紫。
虹を思わせる七色のマカロンたちが、可愛らしく箱の中でおとなしくしている。

例年通り、兄さんは会社の同僚や上司、取引先などからたくさんチョコレートをもらってきた。そして、例年通りホワイトデーのお返しに何かしらお菓子を用意する。
今年はマカロンだ。
去年より増えたお返しを見て、ため息をつく。
ちくしょう。うらやましいぜ。
俺なんか、俺なんか……! いいんだ別に、悔しくなんかないんだからな! うん、うん……。

ぼんやり考えたてたら、リボンを1センチ短くカットしていた。
ヤバ……!
俺は素知らぬ顔をして、失敗したリボンをさりげなくゴミ箱にいれると、再びカットを始めた。
兄さんがちらっとこっちを見て、また包装に集中し始める。

しばらくして、紙の音が消えた。どうやら包装作業が終わったようだ。他の箱は全て小さな紙袋に入って、段ボールに入れられている。
しかし、一箱だけがテーブルの上に残されていた。

「兄さん、この箱しまわなくていいのか?」
俺はリボンをカットする手を止めた。
集中しすぎて、買って来たリボンを全て切ってしまった。散乱する余ったリボンを、紙袋に入れる。

「ああ、これか。これはお前の分だ」
兄さんはそう言うとテーブルの上を片付け始めた。

「え?俺の分あったの?」
俺は思わず兄さんの方を向いた。

「いらなかったか?」
兄の顔がちょっと悲しそうに見えたので、俺は慌てた。
「いや、予想してなかったから」
俺はそう言いながら箱を手に取る。
ころころしているマカロンたち、実は俺も欲しかったのだ。
兄が、ここで俺に気にかけてくれていたことにびっくりした。
「……ありがと」
俺はぽつりとお礼を言うと、どこか気恥ずかしくなったので、その箱を持って自分の部屋に入って行った。


残された兄はため息をついた。
「まだテーブルの上は片づいていないのに、何故部屋へ行ってしまったのか」
やれやれ。

そう言うと、テーブルの上に散らかったままの包装紙やシール、造花、セロハンテープやはさみなどを片付け始めた。

3/26/2025, 12:32:17 PM