utatane

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「特別彼女のことを愛してるってわけではなかったんだけど、この子が好きって気持ちはこれから先も変わらないだろうなって思って、僕からプロポーズしたんだ」

いつだったか。
なんの気なしに、彼に結婚を決めた理由を聞いてみたことがある。
ハンガーに吊るされたシワ1つない白いシャツを羽織りながら、彼は言った。
さっきまで私に優しく触れていた指で、他の人がアイロンをかけたシャツのボタンを丁寧に留める。
「それじゃあ、ありがとうね」
今日もいつもと同じようにお互いに求め合い、満たされれば、私は平凡な日常へ戻るし、彼は特別愛してはいないけれどこれから先も好きな人の元へ帰っていく。

彼が帰った後のベッドに飛び込む。
Tom FordのBlack Orchidの香りが、私は好きではない。
でもシーツに残る、このむせかえるくらい甘ったるい香りでしか、私はあなたの気配を感じることが出来ない。


【好きじゃないのに】

3/25/2023, 2:23:39 PM