Unm

Open App

“花畑”



 待ち合わせ時間まであと10分。腕時計の時間を確認して、私は周りに誰もいないのにはあとわざとらしくため息をつく。
 淡い青緑色のリボンのついた、白いストローハットの少し大きめのつばを少しつまんで位置を調整する。ふんわりと柔らかい初夏の風が、この日のために用意した白いワンピースの裾を持ち上げる。誰もみていないからと風に吹かれて膨らむそれを抑えることもなく眺める。
 ストンとした薄い胸に、肉付きの良くない筋肉ばかりがついていく手足に女子の平均より少し高い身長に、肩でばっさりと切りそろえられた癖のない髪。真顔だと怒っているみたいだと敬遠される可愛げのない顔。声だって低くて大きくて、口調だって可愛くない。こんな格好、似合わないことなんてわかってる。

 もう一度ため息をついたところでスマートフォンが震えて、メッセージの受信を伝える。メッセージの送り主は待ち合わせ相手で、もうすぐ着くよとのことだ。てっきり遅刻の連絡かと思っていたのに、律儀なやつめと舌打ちをする。はやくしろ、と送ったメッセージには既読がつかないまま、うっすらと彼の姿が見えてきた。あっちからも見えているだろうか、なんだか唐突に帰りたくなってきてスマートフォンを握る手に力が入る。

 こんならしくない格好、きっと変に思われる。彼の姿が大きくなるにつれて私の自信はどんどんとしおれていった。顔を上げていられなくなって俯いた視界に彼の影が映る。ごめんね、待った?まるでデートの待ち合わせみたいなセリフにどっと全身が熱くなった気がする。
 取り繕う様にぶっきらぼうな声色で遅いと吐き出すと彼がふっと笑った。
 
 「服、いつもと雰囲気違うね」
 「……似合ってないって言いたいの?」
 「そんなことないよ。今日の行き先にぴったりでかわいいなって」
 「……うるさい」

 彼の左手が私の右手にそっと触れた。デートみたいな、じゃない。本当にデートなんだった。ずっと仲の良い友達だったのに、二人きりででかけることだってあったのに。今は私ばかりが意識しているみたいて癪にさわる。
 初めてのデートは花畑がいいなんて、ロマンチストなことを言ったのは彼の方なのに。


--------------------------
着地点が迷子になったのでそのうち修正します

9/17/2024, 2:02:51 PM