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【入道雲】2023/06/30

「快晴より、雲がある方がいいな。」
学校の帰り道。帰りにしてはまだ明るいこの時間。
周りの田んぼの水が太陽にあたってキラキラと反射している。額からの汗が止まらない。
そんな暑い日、中学からの親友である美乃里が口を開いた。
「なんで?」
私はなんの疑問も持たずに彼女のつぶやきに反応する。
美乃里が少しズレたようなことを急に言い出すのはいつもの事だ。私が幼馴染の涼介と口喧嘩をしてる時はいつも美乃里が割って入ってくれる。もうひとり、いつも一緒につるんでいる誠也という親友もいるが、あいつは私達が喧嘩していても無反応。そんなこともあってか、傍から見ていれば4人のグループで1番お姉さん的な存在に思われがちだが、実はその逆だったりする。
しっかりしているようでちょっとズレたところがあって、よく妄想に老けたようなことを言い出す。
俗に言う天然と言うやつだ。少しズレたその反応が、時々苦手だったりもする。
-まあ、本人は気づいてないっぽいけど。
「だって快晴って雲がないってことでしょ?なんかそれって寂しくない?」
「そうかな〜。私は快晴の方がなんか澄み切っていてい いなって思うけどね。」
雲は雨の原因の一つなわけだし、私はあんま好きじゃない。

「でもさ」

またもや唐突に、今度は大きな声で喋りだした。

「曇って毎日同じじゃないでしょ?なんかいつもと違うことが起こりそうで楽しみにならない?」

空を見上げながら言う彼女の横顔は、本当に楽しそうだった。
私もつられて空を見上げる。
そこには、空を丸々飲み込んでしまいそうなほどの、大きな入道雲があった。
「もう夏だね。」
同じようにそれを見上げながら彼女は言った。
「私たちにとって、最後の夏。」
ドキッとした。
そっか。もう、最後の夏。

何も無いようにこんなこと言っちゃうから、悲しいこと言っちゃうから、やっぱり苦手。

「ほんとに良かった!!!」

え?よかった・・・?

「本当に、最後の夏を、楓やみんなと過ごせてよかった!!
最後の夏、いっぱい楽しもうね!」

少しズレた、その反応が苦手。
真っ直ぐなその言葉が、私の心を突き刺すから。

-でも、こんなこと言われたら、嫌いになんてなれないじゃん。

「そうだね、楽しもう!!」

学校の帰り道。暑さで遠くは歪んで見えるアスファルトを、真っ白な入道雲の下、私は走り出した。

6/30/2023, 9:22:45 AM