傷口に塩

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橙色に染った海。
朝焼けなのか、夕焼けなのか分からない。
いつものように浜辺で、二人で立っていた。
彼はお気に入りの貝殻を見つけたようで
嬉しそうにしているようだが、背を向けたまま。
私は彼の名を呼ぶ。

さざなみが聞こえた。

彼は一瞬こちらを振り返った。
でも、逆光で表情は分からなかった。

他の音は奇妙な程に何も聞こえなかったから、
波と波がぶつかって、砂と砂がぶつかる音の些細な音のひとつひとつが聞こえている気がする。

もう一度、声をかけた。

私は彼の名を呼び、付け加えて「帰らないのか」と聞いた。

海は揺れるたびに光を反射した。
こんな景色久しぶりだ、と思った。

二人は海を見つめたままだった。




彼は、今、どんな表情で海を見ているのだろうか。



さざなみの音だけが、ゆっくりとした等間隔で二人の間に流れた。


─目を覚ました。
目覚まし時計はあえて鳴らさなかった。
彼がまたせめて夢の中でも会いに来てくれるのを願って。

『Love you』

2/23/2024, 3:25:05 PM