黒山 治郎

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ねぇあたし 綺麗でしょ?
ケバさがいいでしょう?

彼女が歌う1980年代の歌謡ロックは
ピッタリと当てはまる様な内容で
心底、愉しそうに上がる口角と
声を邪魔しない軽い身振り手振りは
アイドルの愛らしい雰囲気より
歌手にも近い歌への重みを感じさせる。

「呆れる程、良く似合う曲よね」

嫌味も無く真っ直ぐ吐いた言葉に
彼女はまた一段と口角を上げて
飾りっけの無い私なんかの手を引いて
無防備にマイクを差し向けてくる。

「歌は誰にだって似合うもんよ」

あぁ、本当にやんなっちゃう
綺麗な歌声と笑顔でキメちゃって
ことも無さげにそんな事を言っちゃって
まさしく、そういうとこじゃないの?

「私、アンタが男になって
一緒にこうやって歌ったとしても
絶対に惚れない自信があるわ」

「そんなの、今更のお互い様よ」

内面は似てるのに外面は似てないなんて
皮肉のスパイスが嫌に芳ばしいもんだから
なんだか、眩暈の奥で彼女が一際眩むのよ。

ー 手を取り合って ー

7/14/2024, 8:49:24 PM