裏表のないカメレオン

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 からりと冷たい風が吹く冬の夜だった。男も女も押しなべて重ねて着る衣類が、彼らをモコモコのぬいぐるみに仕立ているような錯覚を覚えた。
 なぜだと、かねてからの疑問がふいに蘇ったのは、その女性がする格好を侮蔑の目で見てたからではない。むしろ、流行してるブルゾンを羽織り、首周りをマフラーで巻いて暖を取っているのに、下は漆を塗ったようなショートパンツが月光を反射させるのが寒々しくも魅惑的に映っていた。
 一度だけ、随分前まで時を遡ると、自分から女子に声をかけた記憶がある。素足が綺麗に伸びた彼女は、え、と勝手に部屋にあがりこまれた娘のような目でわたし捉えた。
 それが軽いトラウマとして、頭に植え付けられていたからか、冷たい風が吹く道路で、わたしはどうしても心を鎮火させようと必死だった。

5/7/2024, 3:39:57 PM