気温はだいぶ高くなってきてはいたが、北風がまだ冷たい朝だった。
付き合い初めて三回目のデート。
二人で観ようと決めた映画の、上映開始一時間前に駅で待ち合わせた。
冬が終わり、春が訪れるその狭間。服装に困ったのだろう、二人とも肩を竦めて歩いている。
映画を観たら少し遅いランチ。
その後はモールで買い物をして·····と、他愛ない会話をしながら映画館へ向かう。
その道すがら。
「手、繋いでもいいですか?」
立ち止まり、そう尋ねたのは今日で二回目。
「·····えっと」
前回同様口ごもる相手に、今日は少し強く出る。
「嫌ですか? もしそうなら僕はもう二度とそれを望みませんから·····」
「違います!」
思わぬ激しさに、少したじろぐ。
「じゃあ、どうして·····?」
自分で自分の手を隠すようにする相手の目は、俯いてるせいでどんな表情をしているのか判然としない。
「·····荒れてて、爪も綺麗じゃないから」
ぽつりと零した小さな言葉。
ぎゅっと固く握った相手の指の、その先。
指輪もネイルも無く、あかぎれとさかむけだらけの荒れた指。
「やっぱり僕は、あなたと手を繋ぎたいです」
固く握った相手の手に、そっと手を重ねる。
ビクリと一度跳ねた指先は、やはり少しかさついて冷たかった。
体温を分け与えるように、掌で包み込む。
「あなたのこの手は、生きてきた証でしょう?」
人のために、自分のために動き続けた手。綺麗かどうかなど、気にならない。
そう言うと、相手は一瞬泣き出しそうに顔を歪めて·····そして、笑った。
END
「手を繋いで」
3/20/2025, 4:29:23 PM