Ryu

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旅の途中で出会った猫は、不思議な力を持っていた。
人間に姿を変え、言葉を喋ることが出来たのだ。

「旅人さんかい?どこまで行くんだい?」
「あてはないよ。家にこもってじっとしてるのに飽きただけだ」
「偏奇なやつだな。外の世界は危険だらけなのに」
「偏奇なのはあんただよ。猫のくせに、人間なんぞに成り果てる必要もなかろう」
「成り果てる…か。猫は猫で、苦労も多いんだけどな」

公園のベンチに座り、彼は自分の手の甲を舐めている。
猫の習性は失くしていないようだ。
私はといえば、名も知らぬこの町に辿り着き、さてそろそろ帰路につくべきかと考えていたところだ。
旅を続けてきたが、特にこれといって刺激的なことなど無かった。
美しい景色はいくつも目にしたが、それも、自分の想像を超えるものではなかった。

「この辺を旅の終着点にして、自分の生まれ故郷に帰ろうかと思っているよ。そろそろ恋しくなってきた」
「そうかい。帰れる場所があるのはいいな。待ってくれている人は?」
「いや…いない。それでも、知り合いはたくさんいるよ。町の皆が知り合いだ」
「そうか。この町にも知り合いが出来たじゃないか。私は、カリエ。猫の時も同じ名だ」
「私はラムスロット。ところで、あんたは何故、人間の姿になれるんだ?」
「さあ…な。もともとは普通の猫だったんだ。ところが、捨てられて彷徨って、この町に辿り着いた途端、こんな力を手に入れた」
「…捨てられたのか。猫も大変なんだな。人間を恨まないのか?」
「さあ…どうだろう。自分も今や人間に成り果てているわけだから。いろんな、こっちの事情も分かってきているんだ」
「…もしかして、猫を飼っているのか?」
「飼わないよ。私もまだ旅の途中なんだ。そろそろ、元の姿に戻りたいとさえ思ってる。戻っても、誰も待ってくれてはいないがな」
「私と同じだな。…どーだ?一緒に、私の町へ帰らないか?お互いに、旅を終わらせるつもりはないか?」
「旅の…終わり?」

私は、彼を連れてその町を出た。
思った通り、彼はこの町を出た途端に、当たり前のように猫の姿に戻っていた。
猫を連れた旅人が一人。これから、新しい暮らしが始まる。
それは、一人と一匹にとって、新しい旅の始まりであり、これからいくつもの、経験したことのない幸せに出会うのだろう。

人として。猫として。
旅は終わらない。

1/31/2025, 9:24:52 PM