「雨だねー」
「そうだね」
時刻は四時半、雨に降られる下駄箱で。彼女は、僕にそう笑いかける。
「このままじゃあ、流石に傘があってもびしょ濡れだね」
「まあ、ないんだけどね?」
いや、本当はあった『はず』だった。視線の先には、空っぽの傘立て。念のためにとそこに傘を立てておいたはずなのに、いざ使おうとしたら誰かが持っていっていた、というなかなかに残念な状況。
「あはは、ごめんごめん。そこの話は置いとくよ。で、だ。これだけ降ってると、帰り道とか危ないよねー」
「川とか?」
その言葉に、彼女は首を横に振って真面目な顔で答える。
「水たまりと、トラック」
……それは、そうだけども。
「あ、今絶対『違う、そうじゃない』って思ったよね?」
楽しそうに、彼女は言う。
「まあ、思ったよ?」
やっぱり。そう彼女は呟いて、僕の背中を勢いよく叩く。
「て言うか、この雨がいつまで続くのかの方を気にした方がいいと思うんだけど」
あと、叩かれた背中がものすごく痛い。
「んー、多分あと三十分ぐらいかなー」
「分かるの?」
僕の言葉に、彼女は大きくうなずく。
「西の方が少し明るくなってるし、向こうの山の方もはっきり見えてきたから、多分だけど」
「……すごいね」
思わず僕はそう呟く。それを聞いて、彼女は胸を張る。そんな何でもない、放課後の話。けれど、本当は。
天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、ただ、「ありがとう」って伝えたいだけ。こんな風に、何でもない話をしてくれていることに。
5/31/2023, 10:28:50 AM