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お題:時計の針
いつも通り目が覚めた。でもそこは普段の部屋じゃなくて見知らぬ空間。ゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそうなほど真っ白でだだっ広い空間に1つの大きな時計、それから沢山のドアがある。寧ろ、ドアしかない。
ふと気付いたことなのだが、私は紙を握っていた。
「出口を探せ 9回目の鐘、それが全ての終わり 真実の終わりには幸せが訪れるだろう 誤れば――」なんて書いた紙。
誤ればどうなる?死ぬ?見知らぬ空間に閉じ込められた時点で不安で仕様がないのに、続きの文章が分からないことで更に不安は加速した。
色々と考えていたが、それを遮るように鐘が鳴った。成程、考える時間は与えてくれないらしい。仕方がないから出口を探してみようか。
…それはそうと先程からゴォッ、という得体の知れない音がずっと聞こえているのだけれど、この音は何なのだろうか。何かやばい生物、それも見たことの無い怪獣と一緒にこの空間に閉じ込められたりして。
そんなことを考えながら振り返ると、呑気にいびきをかきながら眠りこける青髪の男。それは私の最愛の有栖川帝統だった。
いやお前かい。そうツッコミを入れつつも、私は少し安心した。
「起きろ」
容赦なく彼にデコピンすれば、フゴッなんて情けない声を出し、彼は目を覚ました。
「ってェ、もう少し優しく起こせよ…」
「おはよ」
「んー…ここどこだ…」
そう言うと彼はやはり呑気に欠伸を1つしてみせた。
「なんか閉じ込められた、どこかは私も知らない。出口探せ、だってさ」
そう言って先程の紙を見せれば、
「ふーん、片っ端から開けてこーぜ」
なんて口にした。
扉の先に何があるかも分からないのにそんなリスキーなこと、と驚いたが、ああそうだ、思えば彼はそんな人間だった。
一か八か、生か死か、そんな勝負をこよなく愛する彼だからこその発想なのだ。
何はともあれ、扉を開ければ死ぬとは書かれていないし、出口を探すにはそれが手っ取り早い。試す価値はありそうだ。
こうして私たちはありとあらゆる扉を開けて、開けて、開けまくった。
そうして、8度目の鐘がなった頃。結論から言うと未だに出口には辿り着けていない。
もう私も帝統もかなり疲弊し、飽きがきていた。
「なぁ、もう辞めねぇ?これだけ探しても出口を見つけられないんだぜ」
そう言うと帝統はその場に座った。
「そうだけど…ここから出られなかったら死ぬかもしれないんだよ、私まだ死にたくない、元いた世界で帝統と一緒に色んなとこ行ったり美味しいもの食べたりしたいよ」
「まぁ待てよ、死ぬとかどこに書いてたんだよ」
私は彼に紙を見せて言った。
「ほらここ、『全ての終わり』って書いてるじゃん」
全ての終わり、私はその言葉を「死」だと捉えた。
「全ての終わりってだけで死とは書いてねぇだろ。ここの空間にいることが終わる、つまり扉を開けずともこの空間から抜け出せるって意味にも捉えられるんじゃねーの」
「でも……」
「俺は別にここから出られなくなっても良いと思うぜ。お前と2人っきり、そういう事だろ?つまり、お前に寄ってくる男も俺によってくる女も居ないってことだ。俺はお前と一緒にここに閉じ込められるなら、このままでも幸せだと思うぞ」
ギャンブルが出来ないのはきついけどな、と付け加え、帝統は私を見上げるとニッと笑った。
そんな考え方もあったのか。もしここから出られなくなっても、帝統が言うように2人っきりならば怖くない。邪魔者もいなくてそれはそれで幸せなのだろう。
私は彼の隣に腰掛け、少しでも不安を誤魔化すように強く抱き締めた。
こうして私たちは9度目の鐘が鳴るのを待った。
規則正しく鳴る時計の針の音が疲れた私たちを眠りに誘い、遠ざかっていく意識を手放した。
どれだけ眠っただろうか。目が覚めた時、私が見たものは幸せな世界だった。この世界が帝統にとっても幸せな世界でありますように。
2/6/2023, 4:44:03 PM