うめ

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題名 あいまいな空

私たちを取り囲むものは全て、曖昧だと思う。人々はやたらとカテゴライズすることを好むが、人間とはそう簡単に気持ちよく区別できるものではない。
だからはみ出しものが生まれてしまうのだ。
僕は物心ついた時から、男性が好きだった。よく聞かれる事がある。
「女性を好きになれないの?」と。
しかし僕はそんな皆様に問いたい。
「男性を好きになれないの?」と聞かれたことはあるのかい。
あいまいなものを嫌う人間は、こうして意識的にも無意識的にも僕のような「はみ出し者」を、どうにか型にはめようと奮闘する。
僕が型にはまらないことは、時に他人を不快にまでするようだ。
僕は夕焼け空が好きだった。否、好きではなく、羨ましかった。太陽が登るわけでも、月が上る訳でもなく、昼でも夜でもないオレンジ色のその空は、僕たちと同じ、中途半端なはみ出し者のようだった。しかし、そんなあいまいな空を、人は綺麗と言う。……羨ましい。
ボーッと、美しい夕焼けを見て、僕はスマホであるサイトへ書き込みをした。あいまいなその空の、写真を添えて。
「僕と同じ、曖昧な人へ、𓏸月𓏸日𓏸時𓏸分、𓏸𓏸海岸沿いで集まりましょう」

あいまいな空の下、オレンジ色が反射する海の音が、ザザー、ザザーとうるさいくらいだ。
その日集まった15人くらいのあいまいな人間に、僕は神様のような気分になって、言ってやった。
「あいまいでも、僕らは美しくなれます。その方法を見つけたのです」
そこからは一言も言葉を交わさず、1歩、また1歩と空に溶けていく。
足先から交ざって、オレンジに染まる僕達は、きっと美しい人間になれただろう。
頭までオレンジに染まった時、上を見上げて僕は絶望した。視界に入ったのは、僕達が心から羨んだ美しい空と、その下界である海を区別する、輝かしい水面だったのだ。
ふと下を見ると、僕の目の中と同じ、真っ暗な空間が無限に続いているように見えた。誰の目にも写りはしない、真っ暗な空間……僕は、ここで……。
だから僕は今でも、あいまいな空が羨ましいんだ。

6/15/2023, 3:28:52 AM