【君の奏でる音楽】
誰も居ない放課後の屋上に、ギターの音とのびのびと響く女声が響く。
辺りを暖色に染めている太陽は、そろそろ地平線に飲み込まれそうなところまで来ていた。
もう帰らないといけない時間だ。
「そろそろ時間」
歌が途切れた時にそう声を掛けると、まだ歌いたかったのか「あと一曲だけ!」と彼女が言ってきた。
別に門限は無いし良いか、と置いたギターをまた構える。
「やった!ありがとう!」
俺のギターに合わせて彼女が歌う。
力強くて美しい歌声は、夜が見え始めている夕暮れにはとても合っていた。
お互い名前も知らない、そんな脆い関係だが、そんなもんで良いと思っている。
放課後ギター練習をしていたら歌好きの彼女も歌うために来て、どうせだから合わせているだけ。
そんな細すぎる糸で繋がっているこの関係は、いつプチっと切れてもおかしくない。
でも、それはそれでいいんじゃないかな。
ーーー
友人が言った言葉に、思わず噎せた。
「いや、は?どゆこと?」
「だから、これお前じゃないの?」
友人がずいっとスマホの画面を近付けてくる。
そこには、昨日の屋上でギターを弾いている俺と、歌を歌っている彼女が映っていた。
隠れながら撮ったのか、屋上の扉の窓から撮影がされている。
「いや、まあ、俺だけど…」
俺の言葉に周りに居たクラスメイトがざわざわと騒ぎ出す。
静かだと思ったら盗み聞きしてただけかよ。
「再生数やばいよお前」
友人の言葉に再生数の丸の数を数える。
というか何で丸の数が数えられるんだよ。どんだけ見られてんだ。
「なにこれ、10万?」
「そう、これ一日で」
はー、やばいな。と実感もなく言うと、友人から突っ込みが入った。
言うに、『もっと喜べ』らしい。
「いやぁ、だって投稿するの許可も撮ってない動画でバズっても…」
ずっと俺はカメラに背を向けているが、彼女は横顔が見える構図だ。
一応ぼかしはしているらしいが、顔も見せていない俺がバレたのだ。彼女もバレてしまっているだろう。
無許可なの?!と騒ぎ立てる周りに適当に返事を返しながら、俺は少し思った。
彼女との関係がちょっと太くなっちゃったかなぁ。
「それはそれで良いのか…?」
…でも、勝手に投稿したやつは許さん。
8/13/2023, 1:20:49 AM