イオリ

Open App

真夜中

 大学生の頃。
 
 引っ越しして初めての真夜中の散歩。コンビニに行くだけなのに、少しドキドキした。

 道のりは闇だ。だが、完全な闇というわけではない。外灯や途中の家々から漏れるわずかな光を頼りに、歩を進める。

 目的地まであと少しのところで、ふと気付いた。右手側にある一軒の家。よく見るとアールデコ調の外観で、入口の両脇は大きな窓ガラスがはまっている。どうやらアンティークショップらしい。

 何度か通っていた道ではあったが、今まで全く気づかなかった。普通の住宅だと思いこんでいた。

 どんな店なんだろう。今度行ってみようかな、などとワクワクしながら散歩を再開した。

 
 ある日の日中、あの店に行ってみようと足を向けた。

 店の前からちらっと中に目を向けると、当然、真夜中よりもはっきり見えた。皿や陶器のティーポット、西洋人形やおしゃれなデザインの家具などがあるように見えた。

 が、不思議なもので、店内に入ってみようという気持ちが何故か湧いてこなかった。

 散歩のときはあんなにワクワクしたのに。

 中が見えちゃったからだろうか。

 真夜中の散歩のワクワクが、一つなくなってしまったかな、と思った出来事でした。

 ちなみに僕はアンティーク等は全くの門外漢です。なので普通はワクワクするはずないのです。

 真夜中の不思議ですね。

5/17/2024, 12:01:03 PM