お題《遠い日の記憶》
みずみずしいオレンジのような太陽が煌めく。死の果てにいた森も、神秘性を取り戻していた。
世界は彼らを忘れてしまったかのように、美しく再現され不変のまま。
暁をもたらす姫も。
夜の王も。
どこへ旅立ったのか、誰も知らない。
“クゥちゃん、ルシュラみてみて! 私が育てた薔薇なの”
“悪くなかった。――おいクオイ、にやにやするな。気持ち悪い”
「――リシュ? ユーリ……いるわけ、そんなわけないな」
一瞬彼らの声が聞こえた――と思ったが、やはり幻想だ。そんなものは。ルシュラが気分を変えようと紅茶を用意していると、いつものように明るいクオイが入ってきた。
「よっ! アップルパイおまけしてもらったから食べようぜ。あいつらの分もあるから、ちゃんと紅茶、人数分淹れろよ?」
「わかってるよ」
お見通しか。こいつには、永遠に勝てはしないだろう。ルシュラは苦笑しつつ人数分のカップを用意する。
四人分を。
7/17/2024, 11:13:01 AM