べし

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じんわりと肌にはりつくような湿った初夏の日、クーラーで除湿を入れたあの夜に、飼ってたうさぎが亡くなった。

小学生のとき、帰宅するとリビングにはすでにケージがあり、真っ白なあの子がいた。体は真っ白なのに鼻と口の周りと耳の先が少し黒い子で、成長すると全体がグレーへと変化したが鼻先と耳の先の黒さは健在だった。あの子が小さい頃はあまり積極的に世話はしていなかった。せいぜいエサをやり、ちょっと撫でて遊んでやる程度であまりケージからも出していなかったように思う。
それでも受験で荒んだ心をいやしてくれる存在だった。あまりのストレスに「うさぎになりたい」なんて口走って家族に驚かれたこともある。

あの子が七歳を迎えるころ、発作のような症状があった。引き攣るような呼吸、ケージの中で苦しそうにもがく姿に心が痛んだ。近くに小動物を見れるような獣医もなく、ネットで調べて相談するもなす術がないとのこと。ときどき起こす発作に、ケージで暴れて怪我しないように抱いてさすって落ち着かせるしかない無力感。
あの初夏の夜も発作を起こした。たまたまリビングには私しかいなくて、とりあえず抱き上げ、大声で他の部屋にいる家族を呼んだ。

そのとき。
ヒーッと悲鳴のような呼吸のあと、あの子は動かなくなった。


私の腕で最期を迎えられて、あの子も運が良かったと家族は言う。私もそう思う。あのどれだけ呼びかけても反応がなく、だんだんと失われていく温もりは今でも忘れられない。

5/9/2023, 2:00:01 PM