「アンタ、顔赤くない?もしかして酔っ払ってる?昼だけど」
「まさか。仕事前に飲む程私は不真面目ではないよ」
珍しく同僚から話しかけてきたと思ったら、飲酒を疑われていた。否定はしたが、とても不名誉だ。
「熱でもあるんじゃないか?」
彼女に呼ばれてきたのか、友人が顔を覗き込んできた。
熱?私は丈夫な体だから、熱など出た記憶はない。
「師範、大丈夫?」
「無理しないで休んでろよな」
弟子たちもぞろぞろと出てきて私は囲まれた。
特にだるくもなかったが、確かに少し体が熱を持ってる感覚はある。
そして、半ば強引に自室へ追いやられ、ベッドに横になった。
「珍しいな、お前が風邪を引くだなんて」
「風邪……?」
思わず聞き返す。
同僚たちは呆れた顔をする。何故だろう。
「粥でも作ってくるから、大人しくしてろよ」
「私もー!師範、起きたらダメだからね!」
弟子たちに命令までされてしまった。
「お前は無理しすぎだ、いつか過労死するぞ。だからあれ程休めと言ったのに……」
「まぁ、いい機会じゃない?しっかり休んで早く復帰しなよ。仕事たまってんだから」
耳は痛いが、こうして見守られているのが嬉しくて、つい笑ってしまう。
「すまない、お言葉に甘えて今日は休ませてもらう」
「何か欲しいものはあるか?」
「いや、無いよ」
私の欲しいものは今、目の前にあるのだから。
こんなあたたかな気持ちなるのなら、風邪を引くのも悪くはないな──不謹慎だがそう思った日だった。
【風邪】
12/16/2023, 12:18:28 PM