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『梨』


縁側に座ると、秋の心地よい風がすっと通り抜けた。
祖母が持ってきた籠の中には梨が三つ並んでいた。
じっと、見つめていると朝露が反射し、きらきらと輝いていた。


「……。丙年の日、天下に認して、桑・紵(から
むし)・梨・栗・蕪菁(かぶら)などの草木を植えることを勧め、五穀を助けるよう命じた──……。」

「?」


弟が不思議そうに私を見つめた。
弟の口はまるでリスのやうに膨れ上がり、私はついふっと息を漏らしてしまった。

少し不満そうにもごもごと言っているが、その姿さえもリスのようだった。


「ごめんごめん、日本書紀の、日本語訳。最近読んだばっかなの。
持統天皇、飛鳥時代の天皇さんが、桑と、からむしと、梨、栗、かぶらを育てなさいっていう、意味。」


「ふーん。
……飛鳥時代……その時からこの味だったのかな」

「多分それは、違うと思う……。」

「そうだよな。
……んー、やっぱばあちゃんの梨は美味いな。
姉ちゃんは考えすぎ。」


弟は梨に夢中になり、歴史の話はもう興味無さそうだ。
上機嫌で梨を食べ、そして喉をつまらせ勢いよくむせてる弟を横目に私はため息をつき、1口梨をかじった。

しゃりっとみずみずしさが口の中で広がり、少し乾燥した口の中を潤わせ、あまい香りが私を包んだ。


「……美味しい。」




10/14/2025, 4:01:40 PM