千明@低浮上

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「あははは」
声がした。鈴を転がすような声。
そちらを見なくても、その声が誰のものかわかる。
2階のこの教室の窓際の席からは校庭がまるっと見えた。
そこの端に彼女はいた。授業中だろうに木陰に座って友人と笑い転げる彼女を見てみると、こちらまで楽しくなって、笑みが漏れる。
不意に彼女が上を見上げた。すぐに弧を描く目。振られる小さい手のひら。

「せーんぱいっ」

授業中なのを忘れて振り返した手が教師によって掴まれる。

「お前なぁ...彼女が可愛いのはわかるけど、受験生なの忘れんなよ」

後5ヶ月。それでこの学校を卒業する。彼女と一緒に過ごせる期間も後少ししかない。

窓の外を見下ろす。
愛しい彼女は自分が遠くの大学に行く予定だと知ったら泣くだろうか。それでも良いと、遠距離恋愛というのをしてくれるだろうか。ひどく寂しがり屋の彼女。もしかして、別れを切り出されるかもしれない...

窓から入ってくる風は先週より少し冷たくなったような気がする。
季節は夏から秋に変わろうとしていた。
季節の変わり目に、彼女との関係にも変化が訪れそうだ。


#窓から見える景色・秋

9/26/2022, 10:45:14 AM