ウツギ

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あの人を見ると、胸が高鳴るの。

彼女は頬に手を添え、にこやかに微笑んだ。
結局のところ、それは恋じゃなくて病気のはじまりを告げる鐘、動悸であったワケだけれど。

彼女は一瞬の熱に浮かされて、少しでも幸せだったのだろうか。

恋愛脳の彼女だから、どこかで違いは悟っていたと思う。

それでも気づかないふりをしたくて、「胸が高鳴る」なんて普段は言わないような言葉を吐いたのかな。


植物状態になった今も、胸の高鳴りは覚えてくれるといいな。

ひっそりと薄暗い病室で、彼女の胸に手を当てる。

どくん、どくん、どくん。

まだ、動いてるみたいだ。


「よかった」


どうせなら、心臓を取り替えっこできたら良いのにね。

僕の心臓をあげるよ、と口をついて出そうなくらい、太陽みたいに笑う君を見たいんだ。

ああ、僕じゃない誰かに向ける君の笑顔でさえ、もう恋しくなっている。

3/19/2024, 8:58:43 PM