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※ポケモン剣盾二次創作・マクワとセキタンザン
※飲酒の描写があります


雪交じりの冷たい風がびゅうびゅうと吹き荒れる。
降り積もった雪は、下の方が押しつぶされてしまい、もう凍り付いていた。厳しい指示の声が切り裂くように響いていく。
その真ん中に立ちはだかり、振り返るひとの影があった。



電子音が聞こえて、世界が突然切り替わる。セキタンザンがぱちぱちと瞬きをすれば、そこはよくよく見知ったマクワの部屋の真ん中だった。
バディは片手にグラスを、片手にモンスターボールを持ち、一人掛けのソファに座っていた。窓の外は真っ暗で、かなりの夜更けだということがわかる。

「……寝ていましたか?」

白い顔を赤らめて、緩んだ灰簾石の目がセキタンザンを見つめた。床には、いくつか空き瓶が転がっている。どうやら晩酌に呼ばれたらしい。時々マクワが行う気分転換だ。
大きな頭を振って答えた。

「よかった。きみへの……ラブレターが出てきたのですよ。せっかくだから捨てる前に見てもらおうと思って」
「シュポォ?」

マクワは椅子の横に置いてあった、埃のついた箱を持ち上げて、そのまま蓋を開ける。
いつもだったらあの分厚さのものはティッシュを使って払ってしまうだろうから、だいぶ酔っぱらっているのだろうな、とセキタンザンはなんとなしに理解した。
そもそも昔、隠していたはずのものを改めて渡すなんて、普段の彼ならありえないことだった。
蓋の下から出てきたのは、ばらばらと不揃いの黒い石たちだった。
人間が使う記号……文字は特に書かれていない。人間の言う手紙というものには、必ず文字が書かれていて、それをやり取りするものだということくらいは知っていた。

「いつだったかなあ……もう忘れちゃいましたけど……きみにモンスターボールに入ってもらった後だったかな。
ぼくの……ぼくたちの新しい門出に気持ちが高ぶったぼくは、きみにもっと喜んでもらいたくて……きみが好きそうな石をあちこちで拾い集めてたのです。
手紙ではないですが、ぼくなりに気持ちを伝えるためのものでした。
中には鉱物商店で買ったものもあったはず……でも結局タンドンが草を食べるということがわかってその石たちは仕舞い込まれました」

肉付きの良い白い手が、小さな石ころをひとつ持ち上げた。小さな粉が落ちていく。
きっと石炭なのだろう。セキタンザンは自分の体からふわりと浮かんだ黒い粉末を見て思った。
自分自身と同じものは居心地はよいが、さほど特別なものではない。
けれどバディが気持ちを込めてくれたものは、煌めいて見えた。

「……たぶん、それだけじゃなくて。早くいわタイプを自分の味方にしたいという気持ちもあったのだと思います。昨日と別れる証明みたいなものが欲しかったんじゃないかな……」

これを言うと少しひどいかもしれませんが、とマクワは前置きをした。

「きみに……一日でも早く会いたかった。タンドンであって……でもタンドンじゃないきみに」
「シュポォー」

マクワはテーブルにグラスと石の入った箱を置き、椅子から立ち上がった。少しばかりふらつく足元に、セキタンザンは思わず立ち上がりかけたが、それよりもバディが自分の目の前に到着する方が早かった。

「ぼくと進化してくれてありがとう」

あまりにも柔らかい口元がそっと頬に触れて、離れていく。これを伝えれば、きっと機嫌を損ねるだろうと思ったが、彼の母親・メロンのことを思い出した。
峻厳だが、とても大らかで柔らかくやさしいひとがときおり気持ちをのせて贈ってくれるもの。その感触はひどく似ていた。

「きみはいつだってデカくてカッコよくて……素敵で強くて……。ぼくの憧れで……」
「シュポォ!」
「ごめんね。……こおりへの反発心だなんて……くだらない理由でぼくはきみを戦わせてしまって……フフ、本当にきみがバディで居てくれるのがふしぎなくらいで……ぼくもきみに押し付けて……だいじょうぶですか、ぼくといるの……たいへんじゃないですか」
「ボオ」

セキタンザンの固い両手が、マクワの両頬を抑えた。つまらないことを言う口を捕まえてやる。

「いたい……」

それからお返しにとばかり、真っ白でふわふわの頬へと、炎を飼う石炭の硬い口を近づけた。
同じことをしたら人間の柔らかい顔では痛むので、なるべく遠いところから、同じくらいの感触を伝えてやりたかった。

「フフ、きみはやっぱり硬くて……熱くて……さいこうだなあ……」

マクワの体が蕩け始めた。いや違う、セキタンザンは考えた。アルコールという不思議な液体で力を失っているだけだ。もこもこした絨毯の上に膝をついて座り込んでしまった。
随分と酒が回ってしまったのだろう、眠たそうに目尻がどんどん下がっていく。

「セキタンザン、きみと……明日へ会いに行きたい。ぼくたちの明日……たのしみだなあ」

頬を赤くして笑う顔は、何より柔らかくて温かい。
彼と彼の母を凍てつかせるこおりを溶かすものに、いつか自分がなれるかもしれない。
再びメロンを思い出したセキタンザンは、マクワごと抱きしめてしまうのだった。

5/22/2023, 5:16:18 PM