→短編・彼らの世界の有り様
「ねぇ、先生? どうしてこの世界は私に意地悪なんだろう?」
彼女の呟きが、放課後の静かな教室に落ちた。
その淋しげな声音に、教卓で書き物をしていた私は顔を上げた。
教室には彼女と私の2人。窓際の座席に座る生徒と、教壇の教師。近い距離ではない。普段の教室だったなら、彼女の疑問は私の耳に届くことはなかっただろう。
それでも今、私は確かにその声を聴いた。思春期真っ只中の少女から発せられた哲学的な問い。それは決して無視できるものではない。
私は書き物をしていたノートを閉じた。
彼女は取り組んでいたプリントの手を留め、私の言葉を待っている。瞳に浮かぶのは、答えへの期待だろうか?
私は彼女を納得させるべく、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「意地悪じゃなくて、補習。テストやるからねって言っといたのに、まったく準備してなかったのは誰?」
彼女は唇を突き出し不満を表したものの、再び黙ってプリントに向かい始めた。
無防備なコミュニケーションを縦横無尽に操り、世界の主人公は常に自分たちにある多感で無敵な10代の若者たち。それが故に彼らの問いは、壮大で無秩序で、愛らしい。
補習を受けることすら、彼らにとっては世界と直結する大異変なのだ。
さぁ、頑張って。
テーマ; どうしてこの世界は
6/10/2025, 2:25:55 AM