駒月

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 『たすけて』

 薄暗い部屋で、字を書く。
 たった一言だけなのに、手が震えて上手く書けない。
 僕は家で軟禁されている──

 鬼のような継母と異母姉にいびられて、今日も部屋に閉じ込められた。もちろんペンと紙は取り上げられた。
 仕方なく部屋に置いてある本を読む。最近は一冊だけ置いてあった恋愛小説に興味がある。
 暇なおかげで読めない漢字はほとんどない。
 物語は、身分の違いで決して結ばれない男女の恋の話。その純粋で自身を貫く姿が眩しく綺麗に思えた。

「僕にも、そんな恋ができたら……」

 身近にいる年が近い女の子は異母姉だけだった。
 輝くプラチナブロンドの髪、白い肌、大きな目、ピンク色の柔らかそうな唇──抜群の容姿だった。
 誰もが一目で恋するような、そんな彼女だから僕もきっと落ちていった。叩かれても、縛られても、好きだからと思うと耐えられた。

 そうしていつしか、心に思うようになった。

『たべてみたいな』

 ペンと紙は取り上げられている。
 これはどこにも書けないこと。僕だけの秘密なんだ。

 


【どこにも書けないこと】

2/7/2024, 12:53:20 PM