意味がないこと
「僕とお前の関係って、意味がないよね」
と、デートの帰り道、人気のない場所で手を繋ぎながら、歩いていた時に。
隣の恋人が、ぽつりと呟いた。
「なんで?」
俺はというと、食い気味にそんな返事をしていて。
その声は思ったよりも語気が強くて。
俺自身、自分のその声で、今、自分が苛立っているんだとわかった。
それでも、隣の彼は動じない。
相変わらず手は繋いだまま、でも、真っ直ぐ前を見ていて、こちらを見ようとはしない。
俺はそんな恋人の横顔を、真剣に見つめた。
すると、やれやれ、って様子で、彼が溜息を吐く。
そして。
「だって、この先、ずっと一緒に居ても、僕達の関係には何もないでしょ?」
彼の言う、何もない。
それは、俺達が同性同士で、結婚だって、子供だって望めないことを言っているんだろう。
だから、俺は言葉よりも先に。
繋いでいた手にぎゅっと力を込めて。
「意味はある。俺が幸せでいられるんだから」
そう、しっかりと強い気持ちを込めて、言葉にすれば。
ずっと横顔だった恋人の顔が、俺の方に向けられる。
俺は続けて、言葉を紡いだ。
「お前はそうじゃないの?俺といて幸せじゃないの?」
すると、さっきまで淡々とした様子だった彼の目が見開かれて。
その目の端に、涙が滲む。
そして。
「ううん。幸せだよ、すっごく」
なんて、言うなり目を細めて笑うから。
彼の目の端に溜まっていた、涙がスーッと流れるのだった。
End
11/9/2024, 5:44:53 AM