ひともどき

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涙が出るときは、可能な限り流していたい。
知性ある存在として、言葉を使うことが最良だと
私の中のオトナが言うけれど、
言葉にしない方がよいものだってある。



例えば、朋友に惜別を告げるとき。
悩み尽くして送る美辞麗句や、
どんな偉人の名言を引用しても、
一縷の涙に勝りはしない。
餞は言葉にできない方が美しい。


例えば、一面の草原を風が凪いだとき。
口から自然と、「風が見える」と零れ落ちた。
言葉は元々の感動を忘れるほど長持ちする。
だから、涙が風に跳ねて行く感覚を覚えていたかった。


例えば、泣きたくなる程の衝撃を受けたとき。
次はこれほど苦しまないために、
その辛さをひとに共有したいがために、
涙を堪え、言葉に変えるでしょう。

一度分類してしまえば、次はラベルで名付けられた
痛みしか感じられなくなる。
あなたの痛覚は鈍り、世界の清さも、儚さも、厳しさも
ありのままを受け止められなくなる。



涙が出るときは、可能な限り流しておいた方が良い。
涙を堰き止めていたら、そのうちに枯れ果てて、
二度と湧き出なくなるから。
綺羅びやかで虚ろな言葉しか並べられない
私のようにはならないでほしい。


お題「涙の理由」

10/10/2023, 11:34:29 AM