かたいなか

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「不完全な、ボク、しもべ、やつがれ。読み方が指定されてねぇから、下僕の話も書けるし一人称が『やつがれ』な誰かの話も書けるワケだ」
下僕っつったら、猫飼ってるひとの、飼い主のことを「猫の下僕」って表現する場合があるわな。某所在住物書きは猫の画像を見ながら呟いた。
「不完全、ふかんぜん……
逆に『完全な僕』って、『何』についての『完全』なんだろうな。『不完全体僕』と『完全体僕』?」
何か複数の資格等を取る目標があって、道なかばの状態を言う、とかはアリなのかな。物書きは考え、すぐ首を横に振る。
「多分書けねぇ」

――――――

リアル法則ガン無視のおはなしです。不思議8割に申し訳程度の現代をトッピングしたおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その内末っ子の子狐は、稲荷神社の祭神様、ウカノミタマのオオカミサマの、まだまだ未熟で不完全な僕(しもべ)。
善き化け狐、偉大な御狐、なにより一人前の神使となるべく、ご利益豊かなお餅を売り歩いて修行をしておったのでした。

そんなコンコン子狐には、たったひとり、3月3日のひな祭りからずっとお取り引きしてもらっている、優しいお得意様がおりました。
アパートの部屋にお邪魔して、1個200円のお餅を売って、少しお話もして、たまに余り物のお揚げさんを貰ったりして。
それはそれは、平和に取り引きしておりました。

お得意様は、雪国出身の自称ひねくれ者。藤森といいました。
ただこの藤森、前回・前々回投稿分あたりから、諸事情で自分のアパートを離れ、親友の一軒家に身を寄せているのです。
解説すれば長くなるこの騒動。要するに、昔々の初恋相手と、色々ゴタゴタあったのです。
ありふれた恋の暗い部分。しゃーない、しゃーない。

「もうっ。おとくいさん、おうち持つなら、言ってくれれば良かったのに」
そんな人間同士の揉め事など、コンコン子狐はガキんちょなので、まだまだ、ちっとも知りません。
お得意様のお引っ越し先が、自家用車持ちの一軒家であることを、自慢の鼻と御狐のチカラで探し出し、
無事「お得意様が家を持った」と勘違い。
紅白二色のお餅を持って、藤森が身を寄せる部屋に、突撃訪問します。
「おとくいさん、おとくいさん、持ち家、おめでとーございます」
コンコン、コンコン。子狐はうやうやしく、お餅を葛のカゴから出して、藤森に無料で手渡しました。

どうしてこんな事になったのでしょう。
今回のお題が「不完全な僕」だからです。
どうしてこんな事になったのでしょう。
物書きが「不完全な僕(ぼく)」のエモいエモい物語を、一度二度書こうとして大失敗したからです。
すべてはエモネタ下手な物書きの苦し紛れ。
しゃーない、しゃーない。

「あの、子狐、これは私の家ではなくてだな」
「おとくいさんの、実家?おとくいさん、里帰り?」
「実家は都内に無いし里帰りでもない。どこから説明すれば良いか、いや、そもそも説明不要か、」

「じゃあ、おとくいさん、ここのおうちの家族になったんだ。おヨメさんかおムコさんだ」
「は?!」
「おヨメさん、おムコさん、ごケッコン、おめでとーございます」
「待て。私が誰と結婚するって?」

どこからともなく神社での挙式&宴会プランのパンフレットを取り出す子狐に、
どこから間違いを指摘して、どのあたりまで経緯を説明すべきか頭を抱える藤森。
コンコンコン、待て待て違う。
ひとりと1匹のおしゃべりは、その後だいたい30分程度、続きましたとさ。
おしまい、おしまい。

9/1/2023, 4:07:30 AM