あの日。久々に上がった屋根裏部屋の片隅で、鳥の羽根がこんもりと山を作っていた。
ひょっとして鳩でも入り込んで巣作りしてしまったんだろうか。卵を産む前に片付けにゃならんとバケツとホウキを抱えて戻ってきたら、羽根の山がふわふわ動いている。まさかもうヒナがいるのか。
両手でそっと羽根をかき分けてみたら、ふわふわの中にはなんと赤ん坊の天使がうずまっていた。
「おお人間よ。私を見つけてくれてありがとう」
流石は天からの使者。
見た目は赤ん坊でも話す言葉は流暢だ。
「うっかり季節を長く過ごしてしまい、地上で換羽期が来てしまった。翼が元通りになり、再び空を飛べるようになるまでしばしここに居させてもらえないだろうか」
鳥の巣をぶち壊すつもりだったとは白状できず、暖房のない屋根裏に一人居させるのも何だか申し訳ない気分になって、あなたが構わないなら階下に居れば良いと告げると彼はにっこり微笑んだ。
「親切な人間よ。貴方に加護を」
それから一月ほどの間、天使との同居生活は案外楽しいものだった。聞き上手な天使は堅苦しい説教もせずに仕事の愚痴に付き合ってくれたし、しなやかな羽根が生えそろってきた翼を撫でさせてもくれた。
「今日、天の国へ戻ろうと思う」
そう切り出されたときは本当に寂しくて泣きそうだったけれど、引き留めるわけにはいかない。またいつか会えたら嬉しいと伝えるだけで精一杯だった。
「私も貴方との再会を楽しみにしている」
天使はその一言を残して去っていった。
僕は彼に「また会えて良かった」と言われたい一心で、それからの人生を真面目に誠実に、丁寧に生きてきた。
もちろん自分にできる範囲で、だけれど。
今日はあの日と同じ、雲の速い空だ。
天使はきっと疾風のように駆けて来てくれるだろう。
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「部屋の片隅で」
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所感:
不法侵入!
12/9/2022, 7:42:10 AM