飛べない翼
アパートの階段の三段目くらいに小さな雀の雛がうずくまっていた。死んでいるのかと近づくと「ピィピィ」と鳴いた。生きていた。良かったと思いつつどうしたものか悩む。このままにしておくのは可愛そうだし、かと言ってこの薄汚れた小さな生き物を手で持つ勇気はない。
手袋をつければ何とかなるか?
イヤ無理か。
でも可愛そう。
持ち上げたとして、そのあとどうする。
雀は鳥獣管理方法により許可なく野鳥の保護、飼育は禁止されているはず…。
ますますどうしよう。
だいたい、この雀を手袋をつけていたとしても持ち上げると考えるとゾワッとする。可愛そうだし可愛いとも思うが、なんだかゾワッとする。やっぱり無理だ。
あー。どうしよう。親鳥が気がついて迎えにきてくれないだろうか。困った。
「母ちゃん!何してんの。あ!雀!」
息子が興味深げに雀を覗きこむ。雀は大きな口を開けて「ピィピィ」と鳴いた。
「お腹空いたのかな。お母さん鳥さんはどこにいるの。」
雀に問いかける。
「母ちゃん。この雀さん、外の芝生の広いところの方がお母さん鳥さんに見つけもらえるかな。僕が芝生公園まで連れて行ってあげる。」
手袋をした手で雀を優しく掴み、アパートの下の芝生公園の木の根元にそっと雀を置いた息子。
すると雀が一羽、小さな雀のそばに舞い降りてきた。親鳥だろうか。
まだ、飛べない翼を一杯に広げ喜びを表現するかのように小さな雀は、羽をバタバタとさせた。
2週間ぐらいして芝生の公園に雀を見に行ったが、あの雀はいなかった。成長して飛べるようになったのだろうか。
雀と同じように我が息子も勇気と優しさのある人間に育ったとしみじみ思う。
息子の成長を感じた雀との出会いだった。
11/11/2024, 11:45:04 AM