ケトルに水をセットして、沸くのを待っている間にカップにドリップバッグをセットする。お湯が沸いたら、少量のお湯を垂らし、頭の中で15秒を数える。
いち、にぃ、さん……鼻腔を珈琲の芳ばしい香りが擽る。ああ、早く飲みたいなあ……なんて思いながら、15秒を数えきり、カップに追加のお湯を注ぐ。くるくる回すように注げば、白と、茶が混じり合った泡がぷくぷくと揺らめく様が見える。それを、ニ、三度繰り返す。
そうすれば、珈琲の完成。ミルクも砂糖も入れない。黒黒としたそれをそっと口に含む。ふぅわり、香りが脳天まで突き抜けるような感覚にほぅ、と息を吐いた。じわじわと体内を珈琲に侵食されていくこの感覚が、たまらないのだ。
香りを味わうように口に含んでは嚥下し、そうしてカップの中身はいつの間にか空になっていた。と、同時にスマホでセットしていたアラームが、けたたましく現在時刻を知らせてくる。
カップを洗い、シンク横に置いて、小さく背伸び。デスクにつくと、緩んだ表情を引き締めて、珈琲を飲む直前まで手にしていた書類に手を伸ばす。ここからは、現実の時間。
書類を捲る。キーボードを叩く。ほんの僅かな休息だったけれども、腔内に残り続ける安らぎの香りで、まだ少し、頑張れそうだ。
テーマ「束の間の休息」
10/9/2024, 9:03:46 AM