仮色

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【冬は一緒に】

少し太り過ぎな猫が、でろーんとこたつの上で寛いでいる。
野良でたくましく生活をしていた面影は消え失せて、お腹をちょんちょんとつついても面倒な目でこちらを見るだけだ。
そんな目もとても可愛く感じられるものだから、猫という生物のフォルムはよほど人間にフィットするのだろう。

「…あんまやっとたら噛まれんで」

猫と同じくこたつで寛いでいた姉が、私に緩く忠告をした。
こたつの上に置いていたみかんを剥きながら言うものだから、私も少し言い返す。

「猫は柑橘系だめやで、姉ちゃん」
「分かっとるわ、だからわざわざこんなに離れてんねん」

どうやら姉も姉なりに配慮していたらしい。
確かにいつもはこたつの上でみかんを剥くのに、今はゴミ箱の近くで皮を剥いている。ゴミ箱の近くなのは、効率を考えてなんだろう。
猫を触りながら、やっと皮を剥き終えた姉を眺める。

「いて、」

手にちょっとだけ何かが食い込む感覚がしたと思ったら、猫だった。
怪我は絶対しないような甘噛みをされていて、優しさを感じる。
はよやめんかい、とでも言いたげな猫の顔に「ごめんごめん」と言いながら手を退けた。
猫はぴすっと鼻を鳴らして寝る体制に入ったかと思えば、直ぐにすーすーと寝息が聞こえてきた。
あんまり気持ちよさそうな寝姿に、こっちも眠くなってきてしまう。
そういえば最近よく眠れていなかった。
そのことを思い出すと、今まで意識していなかった分の眠気がぶり返すように私を襲う。

「…うちも寝よ」
「あんた体バキバキなるで」
「…それもまた一興やろ」

もうすでに微睡み始めた意識は、続いた姉の言葉を認識せずに暗闇に落ちていった。

ーー

「あ、もう寝た? はっや、寝不足やったんか」

どうしようもない妹の姿に苦笑いしつつ、私は寒くないように肩に毛布を掛けてやった。
絶対に体はバキバキになるだろうが、それもまた一興とか妹がほざいていたのでそこはまあ良いか、と考える。
気持ち良さそうに寝ている一匹と一人を目の端に止めながら、私は食べかけだったみかんを口に入れた。

12/19/2023, 2:39:19 AM