Ryu

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カーテンの隙間から差す光が眩しくて、目を覚ました。
寝ぼけ眼を擦りながら時計を見ると、深夜二時。
…ん?この明るさは何だ?
ウチの周りにこんなに明るい光源は無かったはずだ。
隣の家が防犯のセンサーライトでも付けたか?
聞いてないぞ。
…などと思いながらカーテンを開ける。

そこには、光り輝く老人と思しき存在が立っていた。
いや、よく見るとそれは、窓の向こうで1メートルほど宙に浮いている。
これは…危険なものか、それとも、ありがたいものか。
判断がつきかねる。
何より、眩しくて表情すら分からない。

だが、無造作に伸びた白髪、そして髭。
これは、神様の風貌そのものではないか?
だがしかし、彼の右手にはハサミが握られている。
あのハサミは、凶器として使われるものでは?

だが、あの白装束は、神様が着るにふさわしい衣装だ。
柄シャツなんて着てる神様は見たことがない。
だがしかし、よく見ればその白い服の所々に赤い斑点が。
あれは、返り血を受けた跡では?誰かを刺した?

だが、尊い存在である証に、彼は宙に浮いてるじゃないか。
あんな芸当が出来るのは、神様か教祖様くらいだ。
だがしかし、彼の首の辺りから、一本のロープが我が家の物干し竿に伸びているのがうっすらと見える。
ん?ウチの庭で何してくれてんだ?
いや、それよりも、なんで輝いてんだ?
現実に気付いた途端に、彼の輝きは薄れていった。

思えば、このカーテンを開けることなど滅多になかった。
そこは裏庭で、物干し竿を設置していたものの、一人暮らしの私は洗濯も面倒で、最近ではコインランドリー通いをしていた。
まさかいつの間にか、そこに浮浪者が入り込んで首を吊っていたとは。
ところが、しなる物干し竿ではうまく死ぬことが出来ず、彼は私の留守中に部屋に忍び込んで、ハサミを調達した。
それで自分を刺し、ご丁寧に、再び物干し竿で首を吊って…そんなところらしい。

すぐそばで揺れているのに気付かずに、のほほんと暮らす私に存在を知らせたかったのかもしれない。
そこで、気付かれるために発光技術を身に付けた。
もはやそれが、神の領域ではないだろうか。
…いや、勝手な想像だが。
輝きが薄れ、やっと見えるようになったその表情は、穏やかな笑顔に包まれていた。
それはまるで、布袋様と見紛うほどの…いやもう、こじ付けはやめとこう。

ちなみに、彼が全身にまとっていた白装束は、私が数ヶ月前に干したまま、すっかり忘れていたベッドシーツだった。
…寒かったのかな。
人生の最後に、少しでも心の安寧を与えられたのなら、それも良しとしよう。
まあ、廃棄処分だが。

8/1/2025, 1:50:42 AM