【光と影】
(2023/8/3提示【目が覚めるまでに】Another)
あの日、貴方にもらった言葉を拠り所にして生きてきた。
王宮内の庭園で、隠れて泣いていた幼い私に貴方が言う。
「理想は叶えてこそ意味がある」戦いを無くす、甘い夢。
誰もに笑われた私の希望に、貴方だけは賛同してくれた。
貴方のおかげで、私は間違っていないのだと思えた。
けれど、陛下の考えも周りの人々の意見もまるで違う。
宰相は嬉々として作戦を立て、騎士は戦いを待ちわびる。
痩せた土地ゆえ、生活の苦しい平民も侵略を望んでいる。
歴史を紐解けば、一臣下の謀叛から始まった国家だ。
いま繁栄しているのも他国への侵略を繰り返したから。
しかし、好戦的な思想のなかでも理想を捨てられない。
染められず、別の繁栄の仕方を模索していたい。
具体案の見つからぬうちに、陛下、父上が天に召された。
王位継承権第一位である私は必然的に継がねばならない。
この期に及んで、戦いへの期待に向き合えず迷っていた。
貴方なら、と考える。理想のために、どう動くだろう。
謁見の間にある玉座では、女王らしくしていなくては。
統治する者が臣下に弱った姿を見せられない。
私は父上に倣った。威厳のある陛下の姿を思い出す。
正しいとは思えないが、父上は国民の意志に寄り添った。
新たな侵略の命令に、国中が興奮して沸き立った。
多くの者が血を流し、死ぬことすら名誉だと言われる。
その惨劇を生み出しているのが、王宮に籠る私の一言。
こんなものが私の理想とした国の在り方だったろうか。
もはや理想がわからなくとも立ち止まることはできない。
誰の目もない場所では、仮面が剥がれてしまうけど。
遊学から戻った貴方はよく尽力してくれているのだから。
……ああ、そういえば、貴方の理想を聞いていなかった。
11/1/2025, 6:14:00 AM