「ぽぴーで しうてな おかし!」
手を繋いで歩いていた、白くて毛むくじゃらで二足歩行の猫っぽい使い魔が、突然変な声を出した。何かあったのかと、ニシは思わず足を止める。
「ファキュラ、どうした?」
「ニシさん!ぼく、このおかしが、ほしいです!」
ファキュラの肉球の付いた手は、ショーウィンドウに貼られたお菓子の広告を指している。『POPで!CUTEな!おかし!』と書かれた広告には、カラフルな粒状のグミが飛び交っていた。
「ファキュラ、読めますよ!ぽぴー で しうて な おかし!」
「ファキュラ、これは英語だ。こっちが、ポップ。こっちはキュート。」
「えいご?」
ファキュラは最近、ミナミさんから、新しくローマ字表記を習っていると聞いた。アルファベットが並んで居るのだからと、ローマ字読みしたのだろう。
「英語は他の国で使われている言葉だよ。」
「えいごは、はじめて見ました!どういう意味ですか?」
「楽しいとか可愛いとか、まぁ、そんな感じ。」
「たのしくて、かわいいです!」
ああ、頼むから、そのキラキラした目で見上げないで欲しい。ファキュラは元々、愛玩用として呼び出された魔物だ。こうなって頼みを断れる訳が無い。どうして、ファキュラを引き取る事になってしまったのか。可愛いから仕方ないじゃないか。ニシは一人、頭の中で、そんな事を考える。その間も、ファキュラは目を輝かせて、広告とニシを交互に見ている。仕方ない。家には、まだ食べていない菓子もあるが、ニシは折れる事にした。
「一日、二粒だけだぞ?」
「はい!」
満面の笑みを浮かべるファキュラ。その足取りは軽く、食料品店へ二人で入る。
「ファキュラ、お菓子は後にして、先に晩御飯を買おう。」
「ぼく、晩ごはんは、お魚がいいです。」
「じゃあ、ヘクトクスでも焼くか。」
並べられた魚や野菜、それから、ファキュラの欲しがったグミを買って、ニシたちは家路につく。
「ニシさん。」
「ん?」
「これ、ありがとう!」
ニシと繋いでいない方の手で、大事そうにグミを抱えているファキュラが、楽しげにニシを見上げる。
「ニシさんも食べますか?」
「じゃあ、貰おうかな。」
「かえったら、おやつの時間ですか?」
「そうだね。」
「ファキュラ、ミナミさんのお茶が、のみたいです!」
「じゃあ、ミナミさんに貰った紅茶を淹れるか。」
「はい!」
「ファキュラ、前を見て歩いて。」
「はい!」
ニコニコ楽しそうに歩くファキュラ。ファキュラを召喚した誰かは、もう亡くなってしまったが、自分の元でも幸せになってくれればいい。ニシはそんな風に思う。そういえば、ファキュラに字を教えている姉弟子のミナミさんに、今度また御礼をしなくてはならない。ミナミさんが、ファキュラにローマ字表記を教えてくれたから、可愛いファキュラが見られたのだ。まぁ、読めなくても欲しがった気はするが。ニシは苦笑いで、さっきの広告を思い出す。
「……ポップでキュートなお菓子。」
「ぽっぷで、きゅーとな、おかし!」
一人と一匹は、楽しそうに彼らの家へと帰っていく。
2/27/2025, 12:19:25 PM