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「傘、一本しかないな」

ちょっとコンビニ行こう。
そんなお気楽さで天気予報も見ないで外へ出てまさかの豪雨。かなりの大雨。びっくりだ。
雨宿りさせてもらってるコンビニの軒下から店を覗けば売り物の傘は一本しか残ってない。出遅れた。

君は深々と被った帽子の下、きっとしぶい表情を浮かべているだろう。
猫みたいに水が苦手な恋人は、雨に濡れるなんてありえないくらいに嫌いなのだ。

「…今日の運勢最悪」
「朝の番組でも見てた?」
「見てないよ。でもわかる」

ま、この状況じゃね。俺は肩をすくめて苦笑い。

「通り雨だと思うけどどうする?傘買う?」
「一本しか残ってないじゃん」
「もちろん相合傘…なんて言わねーよ。お前が使えよ」
「なんで」
「なんで?お前濡れるの嫌いだろ。俺は別に嫌いじゃない。お前が濡れて嫌がってる方が嫌だ」

俯いてた君が咄嗟に顔を上げる。潤んだ瞳が嬉しそうにも辛そうにも見えるのはなんで?

「おれ…」

と、君が何か言いかけた時、俺の視界に入ったのは、新しい傘を持ってコンビニから出てくる他のお客さん。

「最後の一本買われたわ…」

俺がそう呟くと、君は目をぱちくりしてからプッと吹き出して、それから俺と顔を見合わせて笑った。

通り雨、濡れていこうぞ、とはならないね。こうしてしばらく雨が止むまで隠れていよう。



▼通り雨




9/27/2023, 3:34:55 PM