モンシロチョウ
その婦人は、花をこよなく愛でている。
瑞々しい花々は、蝶を呼び込む。
決まってそれは、白き蝶。モンシロチョウだ。
だが、その婦人は、少々変わった人柄をしている。
幼き頃に、それこそ蝶よ花よと育てられたそうな。少々子供っぽい面がありつつ、気難しい。
あるときから、その婦人の呼び名は──。
「もんしろの蝶さん! こんにちは!」
「はい、こんにちは」
子供たちが下校する時間帯、紋白蝶の婦人は花に水をやっていた。
最初にそう呼んだのも、どこかの子供だった。
大人達は、婦人の怒りを買うのではとヒヤヒヤしたものだ。
しかし。それこそなぜか、「紋白蝶」を気に入ったらしく。
以降、名乗る際にはこう言っている。
「紋白蝶、という呼ばれ方もあるんですよ、私」
不思議なものだ。
「蝶よ花よ」で育った人間が、蝶を名乗り花を愛でる。
ところで。
紋白蝶の花に誘われてくるのは、なぜか決まって白き蝶だ。
それは、モンシロチョウを知れば知るほどの謎になる。
──綺麗な白のモンシロチョウは、決まってメスなのだ。
これまで、オスのモンシロチョウは現れていない。それはなぜか。
誰も、思いやしないのだろう。
紋白蝶の婦人が、モンシロチョウを育て、メスである白き蝶だけを、外に放っているなど。
──はてさて。謎は深まるばかりだ。
5/10/2023, 9:44:30 PM