NoName

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そうやって、苦しそうな顔を隠さないで。
「すべてが“あやまち”だったのかな」なんて、寂しい言葉を口にしないで。

ずっと悩んで、迷って、それはもう幼い頃から決めてあったんです。
どんなに「この方法」が正しくないモノだとしても、どうか今回のワガママだけは許してください。
少なくとも、これはあたし自身の選んだコトなのだから。

……だけど、とうとう貴女を悲しませちゃった。
いつまで経っても手のかかる子供のままで、本当にゴメンナサイ。
あの人みたいになどなりたくもないし、貴女にまた涙を流させるつもりもなかったんだよ。

でも、最後まで引き止めてくれて、ありがとう。
じゃあ少し、いってきます。

──そう、一枚の手紙を机に乗せた。

かすかな音すらも立てぬよう、履き染んだ靴へ足を通し、深呼吸をする。
怒りの真横で、ぐるぐると罪悪感も渦巻き続けているのが分かる。
その伸し掛る重たさに後ろ髪を引かれながら、そっと暖かな我が家を飛び出した。

たった一度でいい。
あたしの声で、問いただしておきたかったの。
あの人へ「なぜ、あなたは母を裏切ったのか」と。

【たとえ間違いだったとしても】

4/22/2024, 2:00:52 PM