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 人類は突然、小指に巻きつけられた赤い糸が見えるようになった。運命の赤い糸という言葉の通り、運命の人と繋がっているらしい。
 この赤い糸の存在で、世の中は阿鼻地獄となった。
 夫婦なのに結ばれていない。手繰り寄せたらストーカーと結ばれていた。そもそも相手は人間でなかった。
 大混乱の中、私は自分に巻きついた赤い糸を見て、幼い頃に読んだ絵本を思い出した。赤い糸で繋がったお姫様を、素敵な王子様が迎えに行く物語だ。

 私もきっと、王子様が迎えに来る。

 過信していた私は、王子様の迎えを待った。
 一か月、半年、一年、三年。
 迎えなんて来やしないのだと気がついたのは、赤い糸が初めて見えた日から五年が経っていた。世間では赤い糸騒動と称して、一連の事件は終息したと思われている。赤い糸で結ばれていようがいまいが、幸せな人は幸せだし、不幸な人は不幸だという認識に落ち着いたからだ。

 それでも、私はこの小指にずっと存在している赤い糸の先が知りたい。

 居ても立っても居られなくて、私は夏休みを利用して自分の赤い糸を辿った。約半日、炎天下の中を歩きっぱなしになったが、ようやく終点が見えた。
 辿り着いた場所は、白い建物で表に救急車が止まっていた。

 私の運命の人は、ここにいるらしい。
 患者側か、職員側か。どちらかまだ分からないけど、一つ確かに分かったことがある。

 患者ならそれどころじゃなくて。
 職員なら激務すぎて。
 そりゃ迎えに来られないわ。


『赤い糸』

6/30/2024, 1:27:34 PM