ぐるりぐるりと回ってくれればいいと思う。
そうすれば彼と会う時間になるのに、何度見ても時計の針は全然進んでいなかった。会えないこの時間がもどかしいけど彼と会えた瞬間に勢い良く回る。それは反対であって欲しかった。
だから、行動をゆっくりにしてみることにした。
ゆっくりゆっくり歩いて、休憩に入ったカフェではメニュー表とにらめっこして時間たっぷり使って。カメ、ほどではないけどのんびりしてる。時間も私に合わせてくれればいいのにやっぱり時間はあっという間で、不平等だ!なんて心の中で叫んでいた。
別れ際になっても悪あがきをして歩調を保っていた。
「今日は何してるの?」
彼は急かすことなく歩幅を合わせてくれるから私の行動がおかしいことに最初から気付いてたんだと思う。デート中に水を差さないようにして帰り際で聞いてくれる。
「あなたと会ってる間って時間がいじわるだから…」
時間を遅くさせようと足掻いてました、とはあまりにも幼稚な考えかもと口をつぐんでしまった。ひらめいた時はなんとなく名案だと思っていただけにいざ彼を前にすると…。
子どもっぽいなと感じてしまって。
何時もよりゆっくりな私の動作がすでに我が儘を言っているようなものだった。マフラーに顔を埋めて、視線はあちこち。繋いでいるのは手袋だから私の頬や手がいかに熱いかなんて彼は知りもしないのに。
「もっと居たいって聞こえた」
「そう、なの」
恥ずかしなくなって手を離そうとすると彼は手袋ごとポケットに突っ込んだ。しっかり掴まれてて引き抜けそうになくて。
「離すのは家に着いた後かな」
帰り道とは別方向、私に歩幅を合わせたまま彼の家へ向かっていた。
2/7/2024, 3:42:03 AM