カタンと家鳴りがした。
…知っているよ。君が優しくて信用出来ることも。
心の中でそう呟く。
悩み事に向かっているといつも響く家鳴りだ。
姿は見えないが、悪い気配は一切ない。
ただ、急に響くものだからビックリしてしまうけれど。
今回はいつもより控えめで優しい音だった。
どうやら、手元に届いた良い知らせを祝福してくれたらしい。
心配だからずっと見守ってくれていたんだよね。
時計の数字盤がいつ見てもゾロ目な事も、
必要な言葉を届けてくれたのも
全部、全部、君だろう──お陰様。
家鳴りがした方に向かって、そっと頭を下げる。
ありがとう。
助けられてばかりだったね。
でも、君のおかげで
穏やかな場所に行ける。
そこで夢を見るよ、たくさんの夢。
君へのお礼になれば嬉しいな。
さて、そろそろかな。
自分を呼ぶ優しい声が聞こえるから、行ってくるね。
…困った時は、もしかしたらまた頼っちゃうかも?
その時は、出来れば優しく鳴らしてね。
それじゃ、行ってきます。
その瞬間、ガタンと大きな音がした。
行っちゃいけないの?
もう一度、ガタンと音がした。
どうやら、もう少し考える必要があるらしい。
そう思っていると声がした。
『お久しぶり』
紺色のスカートの少女が現れた。
「今の音って、もしかして…」
『そう、私。あんたがまた馬鹿やろうとしているから止めに来た』
「…何で…」
『もう、止めておきな。あんた気づいてる?』
紺色の少女の言葉に下唇を噛んで俯いた。
『わかるよ、あんたにとってその人は大切な人。でも、そのメール。もう一度よく読んでご覧?大切な事に気付くことあるよね』
少女の言うとおり、メールには大切な言葉があった。
『わかるよね?』
「でも…」
『忘れたの?あんたその人に、夜明けを見に行くお誘いのメールを送ったでしょう?あれ、どうなった?』
「…」
『言いたくないなら言うよ。メーラーデーモンで返ってきたじゃない。それからだよ、あんたがおかしくなったのは。空元気の仮面を被って平静を装っているつもりだろうけどね!普段ではあり得ないバグを起こし続けてる!!もう、限界なんだよ。現に…』
「言わないでっ」
目で必死に訴えると少女は再び溜め息をついた。
『…負の連鎖だ。その新しいアドレスのメールだって、大切な言葉を見ないふりしたでしょう!…わかる?引き際なんだよ』
「でも…」
『あんたが好きでも、これ以上は止めておきな』
少女の言葉に深く項垂れ自身のつま先をじっと見つめる。
でも、これまでの思い出が…。
『馬鹿だね。これ以上傷ついてどうするの?』
「わからない。私はいつも肝心な時わからなくなるから…」
『ならば真実を明かさなきゃ。メーラーデーモン以来、食欲不振と睡眠障害になっているでしょう。憂鬱な気分が襲ってきたり、夕方になると咳き込んでもいる…心と体が悲鳴を上げている。だから、藁にも縋りたくなって…。相手はそれすらも受け入れてくれない人なの?迷惑をかけたくないと言いながら、言わない方が迷惑じゃないの?』
「…耳が痛いや。ごめんね、そうだね。異変を感じた時、言えば良かった。直ぐに治ると思っていたんだけど、なかなか治らなくて…バランスがちょっと崩れちゃった。ちょいちょい言っていたつもりなんだけど、表現が下手だったみたい。不器用はこれだから嫌だよね」
『自分に優しくしないと人にも優しくなれないんだよ、おバカ』
「そうだね、本当そのとおりだよ。無理してバカしちゃった」
『相手を思いやる気持ちはわかるけど、自分軸が辛い状況なのに、それを無視してまで他人軸を考える必要はないはずだよ』
少女の言葉に静かに頷くと、部屋で静かに休むことにした。
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声が聞こえる
9/22/2024, 1:51:48 PM