ミキミヤ

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俺の家は、海岸にほど近い場所にある。初夏、部屋にもわりとこもった暑さに耐えかねて窓を開ければ、涼しい潮風とともに、波音が聞こえてきた。

近くの海岸は、昨年亡くなった親父とよく行った場所だ。何か2人で話したいとき、決まって親父は俺を海岸へ連れ出した。そして、足元で波の冷たさを感じながら、いろいろな話をしたのだった。
例えばそれは恋愛相談だったり、進路の相談だったりした。それ以外の些細なことも、よく話した記憶がある。小さい頃から俺は、海で親父と話す時間が好きだった。
反抗期の俺が家を飛び出したとき、行き着く先はいつもあの海だったから、親父はすぐに俺を見つけてくれた。そして、静かに話を聞いてくれた。

窓から入る波音に耳を澄ませていると、たくさんの思い出がよみがえる。
もし俺がいつかここを離れるときが来て、何処か遠い場所へ行ったとしても、この波音はずっと俺の心の中で俺に寄り添い続けてくれるのだろう。いつも親父がそうであったように。
そう思うと、この波音がより愛おしく思えた。

7/6/2025, 8:40:21 AM