川柳えむ

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 少年少女達は旅をしていた。当所も無い旅だ。
 今日は一先ず隣町を目指して歩いていたところ、一面開けた花畑に出た。
 花畑には、細い茎に色とりどりの小さな花弁がいくつもついた、可憐で繊細そうな花が所狭しと並んでいた。
「うわぁー!」
「綺麗……」
 その美しい光景に立ち止まる。しかし、次の瞬間には、みんな解き放たれたように花畑の中へと駆け出していった。
「眺めすごー」
 カラフルに染まった視界、気候も暖かで、幸せな気持ちになってきた。
 このままここで少し休憩することに決め、各々好き勝手に過ごし始めた。
 花畑の真ん中にシートを引き寝転ぶ者、本を読む者、花畑を駆け回る者、花を摘んで冠にしようとする者……それぞれだ。
 一人の少女は、みんなのそんな様子を穏やかな表情で見つめていた。
「何見てんだ?」
 視線に気付いた少年が振り返り、近付いてくる。
「え? いやー……平和だなと思って」
 少女は笑った。
 少し前まで、この世界は恐ろしい魔王や魔物に支配されていた。
 いつ死んでもおかしくなかった。実際に、死にかけたこともあった。人と魔族の戦争の前に、命なんてものは軽かった。
 それが今や、魔王は討ち倒され、こんなに平和だ。まるで嘘のように幸せな日々を過ごしている。
「こんな綺麗な花畑も残ってて、本当に良かった」
 花を一輪摘もうと手を伸ばした。しかし、思ったよりも茎は硬く、なかなか折ることができない。
「……かったぁ!」
「頑丈だよな。見た目はこんな弱そうなのに」
「繊細とか可憐とか言わない?」
「向こうはナイフ使って切ってたぞ。花冠作るのに」
「私は冠は作れないけど、指輪くらいなら作れるんだけど……ね……」
 必死に茎を折ろうとする。しかし、どれだけ粘っても茎は折れなかった。
「硬すぎる~」
「しょーがねーな」
 少年が力ずくで茎を折った。その花を、少女に渡す。
「ほら」
「あ、ありがと……」
 受け取った花の茎をくるくると巻いて結ぶ。
「見て、指輪できた!」
「おー」
「お礼にこの指輪をあげよう~」
 出来上がった指輪を、ふざけて少年の指にはめる。
「これでよし、と……」
 サイズ的にはまったのは、丁度左手の薬指だった。
「あ…………」
 深く考えていなかった。
 指輪を贈る意味。そして、左手の薬指にはめる意味を。
 ふと気付いてしまい、お互い真っ赤になって顔を見合わせる。
「は、外すぞ!」
「そ、そうだよね! 邪魔だもんね! ごめんね!」
 焦って指輪を外す少年。少女も顔を逸らし慌てて謝る。
「でも、まぁ……せっかく作ってもらったし、貰っとくわ」
 そう言うと、少年は貰った花の指輪をポケットにしまった。
「う、うん……」
 気まずくなりつつも、二人はそのままそっと隣に並んでいた。
 顔を上げると、楽しそうなみんなの姿がある。
「それにしても、この花、本当に頑丈だったね」
 気まずさを払拭する為、一番話題にしやすかった、目の前に広がっている花の話を持ち出した。
「本当だな」
「見た目以上に強いんだね」
「そうだな……」
 自分達も、傍から見たら弱そうな少年少女に違いない。でも、戦争を生き延びてきた。見た目よりも、ずっと強い。
 きっと一緒にいればもっと強くいられる。ずっとこの光景は続いていく。
(幸せだな……)
 そんな未来に、自然と笑みが零れた。


『繊細な花』

6/26/2024, 7:10:21 AM