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「2,000年だぞ」
「2,000年ですか」
「確かに桜の散る姿は美しい。残る桜も散る桜と歌われるように、桜の咲き誇る時間は短く、夏を前にしてすべての花は消えてゆく。
 しかし、桜は樹木。樹齢が2,000年に届くものもある。桜はすべて散るが、次の年には同じように咲き誇る……そう考えると、儚さを見出すのは何か違うような気がしてこないか? むしろ、1年にいちど大盛り上がりする、そう、パリピ的な感じさえする」
「死語じゃないですか、それは」
「桜よりも言語の方が儚い」

 俺は深いようで浅いことを言う先輩の横顔を見つめる。
 どういう流れでこんな話になったのかは忘れてしまったけれど、先輩にしては無理に捻り出した逆張り論理、という感じが否めない。
 そこを後輩としてどのように反応するべきかを目を泳がせて少しの間考えて、ふと思い出す。

「そういえば、この前ネットの記事で読んだんですけど、植物ってストレスを感じると悲鳴を上げるらしいですよ。超音波で」
「超音波?」
「トマトとか、実を収穫される時なんかに特に大きく声を上げるらしくて。
 樹木は一個の生命体ですけど、花も受粉して実になるわけですから、それに付随した小さい命かも知れないじゃないですか。
 そう思うと、桜が散る姿も儚く……」

 瞬間、脳裏に再生される散っていく桜の花たちの奏でる、超音波の大合唱。

「……ならないな、違いましたね」
「お、悲鳴を人間が聞けるように加工した音があるらしいぞ。聞いてみるか?」

 俺の返事を待たずに、先輩はスマートフォンでその音を再生する。ぷちぷちと泡の弾けるような音声は、なるほど断末魔のようにも聞こえる。
 カバンの中に、昼飯に買ったあんパンが入っているのを思い出して、俺は唇を曲げた。
 カバンの中には桜の死体が埋まっている、というわけだ。

#桜散る

4/17/2023, 1:02:39 PM